飛べない鳥
彼女は話し続けた。


残り少ない時間しか残っていなかったはずなのに…


俺に魔法をかけてくれたんだ。



勇気という魔法を──…




『大丈夫だよ…あなたなら言えるよ?目を開けたら真っ先に好きな人のところに行ってあげて?きっと待っているから…
あなたはもう飛べない鳥なんかじゃない…強く…後悔しないように…生きて…』


彼女の声は聞こえなくなってしまった。



俺はゆっくりと目を開けた。


そこにはさっきまで隣にいた彼女の姿はどこにもなかった。


俺は必死に辺りを探すが、彼女の姿は見当たらない。


俺はふとベンチに目をやると、彼女が座っていたベンチの上に、桜の花びらが一枚置いてあったんだ。



この季節に桜の花びらがあるのはおかしい。


きっと彼女が置いていったんだとすぐに分かった。



俺はその桜の花びらを掴み、彼女が言ったように、愛する人の元へと駆け出した─…
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