愚者
放課後。葵は帰り支度をしていると、一人の男子生徒が立ちはだかる。
「少し良いかな?」
「え?」
 男子生徒は有無を云わせぬ口調で葵に言葉を投げ掛けると、葵を残して教室を出て行く。葵は如何したら良いか分からずに逡巡した末に、男子生徒の後を追う事にした。リノリウムの廊下の先、先程の生徒が待っている。葵は後ろに付いて階段を下り校庭の裏へと付いて行く。
―何だろう
 別段今迄接触が有った訳では無いのに、突然の呼び出しに葵が困惑していると、男子生徒が葵を手招きして壁際に呼び出す。葵の本能が警鐘を鳴らし恐怖が込み上げて来る。だが、今更引き返す事も出来無い為、葵は男子生徒の指示通りに壁際えと歩いて行くと、不意に男子生徒が葵を壁に押し付ける。
「きゃっ!」
 悲鳴が口を付いて出る。視界がグルリと周り背中が壁に押し付けられる。
「何で邪魔したんだよ」
「えっ?」
「授業の進行だよ」
「そんな積もりは……」
「でも、止まった上にヘンな雰囲気に成ったじゃないか」
「……御免なさい」
「謝れば済むと思ってるんだ?」
「そんな事は……」
「転入して来たからって甘え過ぎなんだよ」
「どうして……」
 そんな酷い事を云うの。そう続けたかったが言葉が出ない。恐怖が身体を硬直させる。恐怖・孤立・虚無感。全ての負の感情が心に溢れて来る。
「邪魔なんだよ!」
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