愚者
 第六章 ココロノ痛み
 夕方の街は人の通りが激しい。私はカウンターの中で夜に向けた準備を始めていると、ドアが静かに開いた。
「まだ、大丈夫ですか?」
「構わないよ」
 先日小夜子と来ていた子だ。だが、先日とは違い悲しみが全身を包み込んでいるのが分かる。
「ここに座ると良い」
 私はカウンターのスツールを指し、足早にカウンターから出て看板を仕舞い込む。
「紅茶が良いのかな?」
「はい」
 確か葵と呼ばれた子だった筈だ。私は湯を沸かしてカップを温め紅茶の準備をしていると、葵が涙を流し始めた。私は有線のスイッチを捻りBGMを流す。
「どうしたんだい?」
「御免なさい……」
「謝る必要は無いよ。小夜子君は?」
「教室に戻ると、誰も居ませんでした」
「彼女は気紛れだからね」
「はい……」
 この少女に涙は似合わない。本来なら綺麗な筈の顔が涙で濡れているのは見るに絶える事が出来無い。
「マスター」
「時雨で良いよ」
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