愚者
「正直今回は参ったで」
 関が愚痴を云い出す。バーとしての閉店時間を狙ったかの様な時間帯に訪れ、スツールに座るとビールを頼み愚痴を吐く。
「何があったのか分からないけど、少しは落ち着いたらどうだい?」
 私は困りきった関を尻目にカウンターにビールを用意すると、関は手酌でグラスにビールを注ぎ込み一気に煽り、一息付いたのを見計らい声を掛ける。
「例の仕事の件かい?」
「そうや。偉い複雑でな」
「その気晴らしに来たって所だね」
「まあな」
 関は懐から煙草を取り出して一服点け、私は頃合を見計らい灰皿を差し出す。
「何か簡単な肴頼むわ」
「分かったよ」
 私は冷蔵庫の中を覗き込み食材を吟味する。ビールに一番合う物は何だろうか。ガサゴソと冷蔵庫を漁り、大手スーパーで購入していたヴァイス・ヴルストを取り出し鍋に水を入れて煮立てる事にした。ヴァイス・ブルストとは、ミュンヘン発祥のソーセージの事を指す。冷蔵庫の中を見渡したが、ビールに一番合いそうな食材と成るとこれ位しか残っていなかった。
「仕事は片付きそうかい?」
「暗礁に乗り上げや」
「弱音を吐くなんて意外だね」
「全貌が全く掴めんからな。気晴らしに酒でも飲まんとやってられんわ」
 関の愚痴を聞いている間に湯が煮立ち、ヴァイス・ブルストを放り込む。後は火を通したら完成だ。
「ストレスが溜まっているんじゃ無いのかい?」
「そりゃ溜まりもするわ。こんな時は美味い酒と肴で気晴らしせなやってられんで」
「美味い肴なら、もう直ぐ出来るよ」
「ほんまかいな?」
「食べた事があるかどうかは分からないけど、美味いよ」
 私は関と言葉を交し乍も鍋から眼を離さず、湯の中で踊るヴァイス・ブルストを眺め、頃合を見計らいサっと器にヴァイス・ブルスト湯を移し、皿にタップリのマスタードを乗せてカウンターに出す。
「なんやこれ?」
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