愚者
深夜の散歩は気持が良い。結局関達が帰ったのは一時を越えていた。閉店は零時と決めているが、珍しく会話が弾み、流れに任した結果がこの時間だ。
 私は夜風に任せる様に歩道の端を歩く。人生も歩き方も端を選ぶのが癖に成っている。駅前。酔っ払いが屯している場所を避けて歩いていると、若い男達が馬鹿騒ぎをしている。私はその集団を無視して歩いていると、集団の陰から見知った顔が見え足を止める。
―あれは
「こんな時間に女が一人なんだ。家迄送ってやるよオバサン」
 少年の一人が蔑んだ意味合いを込めた言葉を吐き捨てる。反吐が出る気分だ。私は集団の後ろに近付き肩を叩く。
「あん?」
「もう、これ以上騒ぐのは止めて置く事だ」
「何だテメエ!」
「知り合いの刑事を呼んだよ。逃げないと確実に刑務所暮らしになる。それとも、その道に進みたいのか?」
 五人の少年達の表情がサっと変わるのが分かる。ブラフか如何かの真意を図る程の経験は積んで無い様だ。
「や、やばいぞ!」
 一人が叫ぶのを切欠に全員が脱兎の如く走り去る。賭けは私の勝ちと云う所だ。
「大丈夫か?」
「あ、有難う御座います」
 震える身体を何とか支えた侭で立ち竦んでいるのは葵の母親だった。こんな深夜に女性が一人で歩いているのは、襲って欲しいと叫んでいる様な物だ。
「深夜にこの辺りを一人で歩くのは感心出来無いね」
「仰る通りです……」
「別に責め立てる訳じゃ無いんだ」
「……はい」
 微妙な沈黙だ。月光浴を楽しむ積もりがヘンな事に巻き込まれてしまった。だが、この侭無視する訳にも行かない。
「少し心を落ち着けると良い」
「えっ?」
「これも何かの縁だ。一杯飲んで行くと良いさ」
「でも……」
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