愚者
パジャマ姿で席に座ると、母が何処か寂しげな表情で食卓に焼き魚や煮物を並べ、夕食の準備を終わらせて座る。
「一緒に食事をするの、本当に久し振りね」
「仕方ないよ。お仕事が忙しいんだから」
「そうね……」
 悲しげな表情は変わらず、何か云いたいのかも知れないが、微妙な沈黙が流れる。
「学校は慣れた?」
「えっ?」
「転入したてだから色々と有ると思うけれど……」
「うん。大丈夫だよ」
 単発の言葉の応酬に成り会話として成立しない。互いに何かを遠慮しているのが分かる。だが切り出す切欠が見付からないと云うか、心の距離を感じてしまう。
「友達関係とかで、悩みとかは無い?」
「えっ?」
「新しい土地で生活すると、やっぱり色々と大変でしょ?」
「うん。でも何となく馴染んでいるから……」
「そう……」
「お母さんの方こそ、大丈夫なの?」
「何が?」
「お仕事大変じゃないの?顔色悪いよ……」
「母さんは大丈夫よ。それよりも葵の事が心配で」
「もう小学生じゃないんだから、大丈夫だよ」
「そう……」
 互いに言葉での距離が有るのが分かるが、如何したら良いのか分からずに、微妙な間が出来ては黙々と食事をする。
―何か違う
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