愚者
葵の心の中に虚無勘が広がる。本当は真実を話したいが、話すと云う事は心配を掛けてしまう事に成る。そんな事はしたく無い。それに、如何しても自分の中で押さえ込もうとすると上手く言葉が出て来ない。葵は黙々と食事をして食器をシンクに持って行くと、母が「後はやって置くから」と短く云い、悲しげな瞳を向けて来る。
「部屋に行ってるね」
葵は最後の勇気を振り絞り母に声を掛けて部屋に戻る。本心を云いたいが、互いに見えない壁の様な物を感じて言葉を濁してしまう。葵はベッドに横たわる。云いたい事なら沢山有る。相談したいと云う思いと、心配を掛けては駄目だと云う気持の板ばさみで心が悲鳴を上げる。痛みに耐える事が当たり前に成っている。葵はベッドの上で天井を見上げていると、徐々に意識が遠のき自分が他人の様に思えて来る。冷静な自分と混乱している自分。
葵はふらりとベッドから立ち上がり椅子に座ると、机の引出しを開けてカッターナイフを取り出す。チキチキと刃を取り出して手首にそっと刃を当てカッターを軽く引く。チクリと手首に痛みが走り、薄皮が裂け血が滲んで来る。葵は手首から浮き出る血を只呆然と眺めている。心と身体のヴァランスが崩れ出している。その為に、本能が痛みと云う現実的な方法で身体と心に警告を与える。この侭では駄目だ。死の淵に立っている。だが当事者の本人にはその様な事は全く分からない。只、現状から逃げたい一身だけだ。ポタリと、手首を血が伝い机に滴り落ちる。葵は他人事の様に滲み出る血を眺めていると、ドアが数回ノックされ意識が立ち返る。
「はい」
「お母さん今から仕事行くけど、戸締り気を付けてね」
「うん」
「部屋に行ってるね」
葵は最後の勇気を振り絞り母に声を掛けて部屋に戻る。本心を云いたいが、互いに見えない壁の様な物を感じて言葉を濁してしまう。葵はベッドに横たわる。云いたい事なら沢山有る。相談したいと云う思いと、心配を掛けては駄目だと云う気持の板ばさみで心が悲鳴を上げる。痛みに耐える事が当たり前に成っている。葵はベッドの上で天井を見上げていると、徐々に意識が遠のき自分が他人の様に思えて来る。冷静な自分と混乱している自分。
葵はふらりとベッドから立ち上がり椅子に座ると、机の引出しを開けてカッターナイフを取り出す。チキチキと刃を取り出して手首にそっと刃を当てカッターを軽く引く。チクリと手首に痛みが走り、薄皮が裂け血が滲んで来る。葵は手首から浮き出る血を只呆然と眺めている。心と身体のヴァランスが崩れ出している。その為に、本能が痛みと云う現実的な方法で身体と心に警告を与える。この侭では駄目だ。死の淵に立っている。だが当事者の本人にはその様な事は全く分からない。只、現状から逃げたい一身だけだ。ポタリと、手首を血が伝い机に滴り落ちる。葵は他人事の様に滲み出る血を眺めていると、ドアが数回ノックされ意識が立ち返る。
「はい」
「お母さん今から仕事行くけど、戸締り気を付けてね」
「うん」