愚者
葵は何度も自分に云い聞かせる。そうする事で少しでも心の中が軽く成るので有ればと云う思いだけが先走る。だが、そう云った思考が不味いと云う事実に葵は全く気が付いて無い。不の思考とは、ある意味では泥沼に成る意外に選択肢が無いと云える位に過酷な物だ。眼に見える物、肌に触れる物全てが悪い方向へと向うのは必然と云って良い。
 通学路。本来なら楽しい筈の学園生活も、葵に取っては只の苦痛でしかない。学校への距離が近付く程に乖離する心。葵は極力何も考えない様にと自分に云い聞かせ乍、通い慣れ無い通学路を通り校門を潜ると視界がグニャリと曲がる。校庭に入った瞬間から戦いは始まっている。今を生きる。今日を生き抜く。サヴァイバルに近い感覚と云えば分かり易いだろう。    
 楽しそうに教室へと向う生徒を尻目に葵は一人寂しく下駄箱へと行き、上履きに履き替える為に下駄箱を開け気を失いそうに成る。下駄箱の中に蛙の死骸が放り込まれていた。
 悲鳴を上げる元気すらも無い。只、眼の前に有る蛙の死骸と云う事実だけが妙に現実味を帯びている。葵は吐き出しそうな思いを胸に鞄からハンカチを取り出し、蛙の死骸をそっと包み込み校舎の外に出ると、迷う事無く校庭の裏に行き、土を掘り返し蛙の死骸を埋めて手を合わせる。
自分自身への嫌がらせの為に小さな命が犠牲に成っている。葵は、頬に伝う涙を拭い、すっと立ち上がると校舎へと戻り、上履きに履き替えて教室への階段を上がっていると、視界の端に昨日の男子生徒が立っている。葵は視線を外して教室に向うと、男子生徒は擦れ違い様に軽蔑の言葉を投げ掛け立ち去る。
―如何してなの……
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