愚者
小夜子の言葉を最後に葵は立ち上がる。お見舞いに来た筈が逆に元気を貰うと云うのも不思議ではあるが、今の葵には欠かす事が出来無い存在に成っている。
「それじゃあ、無理しちゃ駄目だよ」
「大丈夫だよ。それより、葵君の方こそ気を付けるんだよ。決して、早まった事を考えちゃ駄目だ」
 小夜子が何気無く云った一言に葵はドキリとする。心を全て見透かした様な言葉。小夜子の前では、下手な嘘等は意味が無いと思わされた瞬間だった。
「うん。大丈夫だよ」
 葵は、苦い思いを断ち切る意味も込めて満面の笑顔で小夜子に答え、老婆に教えられた道を辿り、ゆっくりとした足取りで家路に帰る事にした。

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