愚者
「もう大丈夫?」
「うん……」
意識が遠のいてから数時間の後、葵は完全に意識を取り戻した。自分を見失い、遠い世界に逝きそうな自分を母の声が呼び戻したのだと葵は漠然とではあるが感じる事が出来た。
意識を取り戻す迄の間、葵は深い断崖絶壁の薄闇の中を、一人裸体姿で蹲っている記憶しかない。これが死後の世界なのだろうかと、葵は妙に冷静な自分を感じ乍も、仕切りに涙を流していた。何に対して悲しいのは分からないが、心の琴線が揺れ動き、自然と涙が流れて止まらない。そんな中、遠くから懐かしい声が聞こえては葵の心を強く呼び戻そうとし、懐かしい声に惹かれる様に意識を取り戻した。
「どれ位倒れていたの?」
「まる二日間、意識が無かったのよ」
「……記憶が、凄く曖昧なの」
「無理しちゃ駄目よ。お医者様も云っていたけど、今は余り何も考えない方が良いと仰ってたわ」
「うん……でも、何があったのか知りたいし……そうだ!小夜子は?」
「今は何も考えないで寝なさい」
「知りたいの……何があったのか知りたいの」
母はベッド脇のパイプ椅子に座り少しだけ俯く。悲しげな瞳だ。葵の本能は何かあったと云う事を漠然と感じる。
「ねえ……」
「順番に説明するわね。落ち着いて聞いて欲しいの」
「うん」
「葵は学校の階段から落ちたのよ」
「階段から?」
「ええ……」
葵は頭痛に悩み乍も記憶を遡る。確かに昼食を食べた後に、急いで教室に戻る為に階段を下りていた記憶はある。その時は小夜子と一緒に居た。だが、そこから先の記憶が曖昧だが、おぼろげに覚えているのは、最後に小夜子が自分を呼ぶ声だけが脳裏にこびり付いている。
「小夜子は!?」
葵は不意に沸き起こる不吉な思いに胸が押し潰されそうに成る。間違い無く何かがあった。男子生徒にぶつかり、そこで記憶は途切れている。衝突はしたが、生徒の顔も殆ど覚えていない。転落事故の時には校舎に生徒が溢れていたのだ。
「ねえ、小夜子は!」
「……まだ、意識が戻らないのよ」
「うん……」
意識が遠のいてから数時間の後、葵は完全に意識を取り戻した。自分を見失い、遠い世界に逝きそうな自分を母の声が呼び戻したのだと葵は漠然とではあるが感じる事が出来た。
意識を取り戻す迄の間、葵は深い断崖絶壁の薄闇の中を、一人裸体姿で蹲っている記憶しかない。これが死後の世界なのだろうかと、葵は妙に冷静な自分を感じ乍も、仕切りに涙を流していた。何に対して悲しいのは分からないが、心の琴線が揺れ動き、自然と涙が流れて止まらない。そんな中、遠くから懐かしい声が聞こえては葵の心を強く呼び戻そうとし、懐かしい声に惹かれる様に意識を取り戻した。
「どれ位倒れていたの?」
「まる二日間、意識が無かったのよ」
「……記憶が、凄く曖昧なの」
「無理しちゃ駄目よ。お医者様も云っていたけど、今は余り何も考えない方が良いと仰ってたわ」
「うん……でも、何があったのか知りたいし……そうだ!小夜子は?」
「今は何も考えないで寝なさい」
「知りたいの……何があったのか知りたいの」
母はベッド脇のパイプ椅子に座り少しだけ俯く。悲しげな瞳だ。葵の本能は何かあったと云う事を漠然と感じる。
「ねえ……」
「順番に説明するわね。落ち着いて聞いて欲しいの」
「うん」
「葵は学校の階段から落ちたのよ」
「階段から?」
「ええ……」
葵は頭痛に悩み乍も記憶を遡る。確かに昼食を食べた後に、急いで教室に戻る為に階段を下りていた記憶はある。その時は小夜子と一緒に居た。だが、そこから先の記憶が曖昧だが、おぼろげに覚えているのは、最後に小夜子が自分を呼ぶ声だけが脳裏にこびり付いている。
「小夜子は!?」
葵は不意に沸き起こる不吉な思いに胸が押し潰されそうに成る。間違い無く何かがあった。男子生徒にぶつかり、そこで記憶は途切れている。衝突はしたが、生徒の顔も殆ど覚えていない。転落事故の時には校舎に生徒が溢れていたのだ。
「ねえ、小夜子は!」
「……まだ、意識が戻らないのよ」