愚者
「少しだけ時間をくれるか?」
 関は一時間程の浅い眠りから眼覚める成り私に言葉を掛け、葵の鞄を漁り出す。何をするのか検討は付く。私は葵の事は関に任して階下に行き、本日は休業の旨のプレートを玄関に掲げて部屋へ戻ると、関が携帯電話で話を終えた後だった。
「後少しで、妹さんがここに来る手筈をしといた」
「助かるね」
 細かい話をするのであれば階下の店ですれば良い。その間、葵の容態は関に任せる事にする。一時間程度の仮眠で復活をしている所を見ると、見掛け以上に強靭な身体と精神力の持ち主だ。私は関に葵の事を託して階下へと行き、テーブルに座り煙草を咥えて一服点ける。複雑な気持だ。数十年の時を経て再会をする妹。無論名乗る事は出来無い。否、私にその資格と自信が無いだけだが、今更名乗るのも筋違いだ。だが、兄として出来る事はある。姪にあたる葵を守る。これが、今迄妹に辛い道を歩ませた私が出来る最大限のケジメの付け方だ。
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