愚者
「誠意を込めて謝罪をしたが、受け取らなかったからね」
「洒落た事を云ってんじゃねえよ」
 不味い兆候だ。こう云った手合いは限度と云う言葉を知らない。その上かなり執念深い性格なのだろう。些細な事柄を良く覚えている物だ。
「争い事は嫌いでね。もっか、君達の獲物はこの男なんだろう?それなら、矛先を私に向けずにコイツに向けて欲しいね」
 私は足元に纏わり付く男を強引に引き摺り立たせ突き飛ばすと、男は泣き出しそうな顔で私に視線を向けて来る。
「それじゃあ、私は行かして貰うよ」
 煙草を投げ捨て振り返り立ち去ろうとすると、例の男が私の肩を掴んで来る。
「一人も二人も関係ねえ。俺達の収入源に成って貰う事以外にはな!」
 男がストレートのパンチを繰り出して来る。テレフォンパンチだ。私は軽く顔を反らしてパンチを躱す。
「厄介事は嫌だと云ったろう。そんなに金が欲しければ、その男から私の分も搾り取ったら良い」
「金は搾り取るさ。でもなあ、俺の苛立ちは収まらねえんだよ!」
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