愚者
足元の男の脇腹を思い切り蹴り上げる。弱者としか遣り合いをした事が無いのだろうが、驚く程に打たれ弱い。吐瀉物に顔を埋め乍男がノタウチ回っていると、もう一人の男が顔色を変えて構え、懐からナイフを取り出す。全身の血がカッと沸騰するのが分かる。この状態で逃げる事は最早無理だろう。それなら徹底的に叩きのめさなければ成らない。こう云う手合いは、中途半端な手加減を加えると、後々何をしでかすか分かった物では無い。
「よくも!」
 男がナイフを繰り出して来る。こいつもド素人だ。私はナイフを躱しパンチを叩き込む為に踏み込もうとすると、足元に違和感を覚える。倒れた男が私の邪魔をしている。私は瞬間的にしゃがみ込み、男の喉を手刀で打ち据え、力が緩んだ瞬間に引き摺り起こし肉の盾を作る。
「こいよ」
 挑発。仲間を盾にされた状態で、この男が諦めなければその程度の関係と云う事で、気兼ね無く肉の盾として使い、隙を見て反撃出来る。
「や……やめろ!」
 男が掠れた声で仲間に懇願する。力関係は同等と云った所か。空気がヒリ付く。荒い呼吸。ジリジリと男が間合いを詰めて来る。距離にして三メートル。如何やらこの男には肉の盾として役に立って貰うしか無さそうだ。
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