愚者
「そう云う見方をすれば、確かに難しい問題かも知れないね」
「ニュースとかで、兎角イジメ問題を取上げとるけど、何で学生だけに成るのか不思議で仕方ないわ。虐めと云う広義の内容を取り扱うなら、その辺りの大人の世界も取材するべきや。大人に成る程に、陰湿且つ圧力での個人の潰し方は酷いからな」
 関が珈琲を啜り乍も熱く語り出す。私が知り得る範囲の関からは随分と離れた熱弁ぶりだ。私の様な社会からドロップアウトした人間には見えない世界が、関には見えているのだろう。
「それで、和さん的には受けるのかい?」
「その選択肢を考えるのに、時雨成りの見解を聞きにきたんや」
「私なら受けるかも知れないね。所詮、使えない人間は自然淘汰されるさ。和さんが背中を押すか、時代が後押しをするかの違いで、駄目な企業は遅かれ早かれだよ。それに、そんな事を気にする柄じゃ無いだろ?」
「えらい率直な意見を云うなぁ」
「聞かれたから答えただけさ」
 端的な言葉で会話を進めていると、関は懐からジッポーを取り出し一服点け、渋面に成り考え込む。今、関の頭の中は高速回転で私の意見と依頼内容を吟味しているのだろう。私はすっかり冷えた珈琲をシンクに下げ、もう一杯珈琲を煎れていると、関は不意に顔を上げて頷く。
「時雨の云う通りやな。引き受けて見るわ」
「そうか」
「偽善者の真似事は似合わんって事やな」
「人間本来の欲望に従ったと云う所かい?」
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