愚者
「ギャラが良いからな」
「初めから、答えは出てたんじゃないのかい?」
「かもしれんな」
「この間の相談って、実は今の内容だったとか?」
「人の心を見透かすのは勘弁してくれへんか?それに、その辺りはワシの専売特許や」
「さて、どうだろうね」
 私の皮肉に、関が曖昧な笑みを浮かべてスツールから立ち上がる。
「皮肉も良いけど、たまには自分の感情を表にだして見たらどうや?」
「和さんも、心を見透かすのを止めた方が良い」
「まぁ、お互い様って所やな」
 関は、最後にそう云い残して店を出て行く。誰も居ない店の中。私は煙草を咥えて一服点け思い切り吸い込み、関の言葉を反芻する。自分の感情を表に出せ。私には難しい注文だ。感情を、存在を押し殺す事で生きて来た人生の方が、生まれてからの時間よりも遥かに長い。喜怒哀楽とは何を云うのだろうか。私には分からない。表面的な表情の変化や心情の変化では無い、本当の意味での喜怒哀楽。誰しもが保有しているのだろうか。若しそうだとしたら、私は只の異端者でしか無い。チリチリと短くなる煙草の火が私の指先を焼くのと同時に、熱さと云う痛みを胸に灰皿で煙草を押し潰し天井を見上げると、天井に付いた染み迄が、私を見下している様に見えた。

第五章 歯車
「今回のゲームの仕様書です」
 中規模の会議室の部屋。銀髪の男が人数分の紙を順に渡して行く。
「今回の基本コンセプトが一枚目、次に細かい計画とレート。その他の質問は個別に受けるので、疑問が有る者は手を挙げて下さい」
 男が事務的な口調で話を進めるが、暗黙の了解だとばかりに他の男達は押し黙り説明を待つ。
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