愚者
「今回の開催場所は、記載されている通りです」
 男が良く通る声で説明を始めると、一人の男が緩やかに肩の関節を鳴らし、銀髪の男に話し掛ける。
「コンセプトは何時もの通りだろう?無駄な会話は省こうじゃ無いか。それより、準備の方は万全かね?」
「愚問と云う言葉、知っていますよね?」
「自信が有ると?」
「今回は私が親ですからね。負け戦をする程に愚かでは無いですよ」
「若僧が……」
「その若僧に負けたら立場がないでしょうね」
「ふん」
 険悪と云う訳では無い。寧ろ、この雰囲気を楽しむと云う様な言葉の応酬が続く。
「今回の最低レートは50万。上限は1000万ですが異存は?」
「異論と云うか、質問が有るんだがね」
 小柄でデップリと太った男が手を挙げる。ダブルのスーツ。周りの中では比較的浮いた感がある。
「確か貴方は……」
「互いの詮索をしない。そう云い含められていたが、見当違いかね?」
「失礼」
「ハウスルールと云うのが有るのだろう?私は今回が初参加で詳しくは理解してないんだがね」
「簡単に云えばチンチロと同じ原理です」
「チンチロ、か……」
 男はチンチロと聞き鷹揚に頷く。チンチロとは、三つのダイスを器に放り込んで揃った出目で勝敗を決める物を云い、比較的個人で開く事の出来るギャンブルに属する。
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