愚者
 元来、第二次大戦後、GHQ司令官公娼制度廃止の要求がされた事に伴い、一九四七年に所謂ポツダム命令として、婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和二十二年勅令第九号)が出された後、一般的には公娼制度は名目上廃止されたが、現在も店舗に寄っては強要する店も存在し、事実上は混沌とした状態である。恵の在籍する店も、ある種個人意思の元で勝手に行なわれていると云う御題目で、事実上大半の店舗で黙殺している。実際に恵が在籍する店舗が記載しているプレイ内容は、所謂ソフトプレイと云われる、口・手・股等をメインに自身の性器を使用せず、男性の性的欲求を発散させるプレイだが、中には露骨に売りをし、店舗から受け取る給金とは別に、客から個人プレイ代金として隙間で稼ぐ者も存在する。だが、店としてもそう云う行為をする方が、確実に店舗の回転率が上がる事から黙認している。恵と対峙する女性は、その部分を遠巻きに揶揄している。陰湿なイジメだ。恵は答えに窮して押し黙っていると店の外が騒がしく成る。如何やら客が訪れた様でボーイが「静かにね」と短く云い、接客に応じる。
 ガヤガヤと淫猥な言葉が飛び交い、ボーイが女性を勧め、待機室には重い沈黙が流れる。
「恵ちゃん、御指名だよ」
 恵はボーイの声に安堵する。指名された事への安堵と云う寄りは、この場から離れる事が出来る事への開放感が恵を安心させる。
「じゃあ、宜しく頼むよ」
 ボーイが軽い口調で促すのを受け、恵は仕事用のバックを手に持ちスタッフ専用の出入り口から外に出る。廊下の向こう。エレヴェーターの前に男性が立っている。見た目は六十歳位の太った中年男性だ。
「宜しく」
< 92 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop