愛恋
「あ、この前の子じゃない?」
そう言われたのは、夏休みだけのバイトに少し慣れはじめた、7月の終わりがけのある日の帰りのバスの中だった。
「あ、お久しぶり・・・です。さ・・・?」
「サトル、サトル!!」
満面の笑みで頷きながら言う長身でアディダスのスポーツバックを肩からかけた男。
「あの、この前のダイキさんは一緒じゃないんですね」
「大輔でしょ?」
笑いながら訂正された。
「大輔さん。ですね・・・」
サトルさんの笑顔につられて、あたしも少し笑った。
「やっと、ちゃんと笑ったね~」
彼も少し笑いながら、あたしの座ってる座席の背もたれの部分に腕を置いた。
「この前困ったっしょ?あいつ」
と言いながら、"あいつ"の所で頭を軽く掻いたサトルさん。
「まぁ。」
とあたしも真似して頭を掻いた。
「真似するなっつの」
笑いながら、人差し指であたしの頭をツンと突いた。
その行動は、2回しか会っていなくて、完全に2個は年上の男なのに、不審感は全く無くて・・・
優しい笑顔の持ち主だった。