ドラゴン・テイル

 ウルが腕の力を緩めることは無かった。

 建物は力なく地面に落ちていく。全てがスローモーションに見えた。

 諦めたようにうずくまる人、前を走る人を押し倒して乗り越えながら逃げようとする人、悲鳴、罵声……。

 その真っ只中で、呆然と建物を見上げるキスティン。

 不意に、誰かがキスティンを押し倒すように地面に押さえつけ、覆い被さる。

 オレンジ色の頭が、砂埃で山吹色に見えた。


 ──────クレイグ!!!

 キスティンを庇おうとするクレイグの真上で、轟音と共に建物がのし掛かっていった。

 その瞬間を見ないようにと、レナを力一杯抱きしめ目を固く閉じる。




 しばらく、何も聞こえなかった。




 倒れる速度、傾き、地面までの距離、建物が地面についたことを知らせるであろう轟音が聞こえてもおかしくない程の時間は経過したはずだが。



 音は、聞こえなかった。

 ─俺の耳がおかしくなったのか……?

 ウルはゆっくりと目を開け、建物が落ちたであろう場所、クレイグ達の居た場所に視線を飛ばす。




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