シムーン
一体、何?

そう思っていたら、
「ごめん、何でもない」

そう言われて、彼に腕を放された。

どうして彼に謝られたのかよくわからなかった。

呼び止めたこと?

腕をつかんだこと?

いろいろと浮かんでくるのに、何も言えない。

「扉が閉まります」

聞こえたきたアナウンスに我に返って、エレベーターを降りた。

目の前のドアが閉まった。

取り残されたように、私はドアの前で立っていた。

「――あなた、何者…?」

開かないドアに向かって、私はそんなことを呟いた。
< 62 / 176 >

この作品をシェア

pagetop