シムーン

Secretー秘め事は秘め事のままー

「何があったんだ?」

黙っている私に、課長が聞いてきた。

何も答えることができない私は、うつむくことしかできない。

私が彼にキスされたところを、彼に見られてしまったかも知れない。

私との秘め事を目撃してしまったかも知れない。

そう思うと、答えることができなかった。

課長のため息をつく音が、沈黙に包まれた会議室に響いた。

ため息をつく音を聞いたのは、初めてかも知れない。

「もういい、行くぞ」

課長がそう言ったのと同時に、私は顔をあげた。

すでに彼は私に背中を見せていた。
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