アリィ
「やめろよ!」
「こんなことしていいと思ってんのかよ!」
もう誰も口をきけなくて、ミオとノアの怒声だけが虚しく響く。
もみ合っている四人の姿が校舎へ消えて見えなくなろうとした、そのとき。
「負けないで!!」
悲痛な叫びが鼓膜をつらぬいた。
アリィだった。
みんなの視線が、一気にアリィに集中する。
呼吸のために大きく上下している肩が、今の一言に要した勇気の大きさを物語っている。
物語っているのだが、教室に漂っているのはその勇気への賞賛ではなく、肩すかしでも食らったかのように白けた空気だった。
異常に緊迫した雰囲気に、今の一言はあまりにも突拍子がなかった。
いたたまれなくなって、私は下を向いた。
その先には偶然、靴箱の入り口の前でひとりこちらを見上げているノアの姿があった。
ほかの三人は、すでに校舎の中へ入ってしまったようだ。
さっきのアリィの叫びを聞きとって、その発信元を探しているのだろうか。
少なくとも私には、そういうふうに見えた。
ノアは、ぎゅっと下唇をかみしめて、すぐに三人を追って校舎へと消えて行った。