アリィ
「こら、みんな席を立って何してるの?」
壮絶な事件のあと、さらに白けて、みんなが動くのを忘れていたところに麻生先生がやって来た。
「文化祭の準備のために自習時間をあげていたのよ。
ちゃんと自習できないなら、いつも通り授業をしますからね」
麻生先生は、今この教室の下で何が起きているのか、まだ知らないらしい。
みんな重々しく黙って席につく。
しかし、アリィだけは立ちあがったまま動こうとしない。
「……アリィ、座りなよ」
おそるおそる声をかけると、心ここにあらずではあるが、アリィは素直に席に座った。
私は何か言おうとしたけれど、できなかった。
たぶん返事は期待できなかったから。
違和感が、うずく。
涙腺がきゅんきゅん鳴く。
だからって泣きはしないけれど、なんだか無性に苦しい。
アリィがカナエ達に興味を示しているだけ、ただそれだけのこと。
別に不都合はないじゃないか。
それなのに、この体に現れる反応は何なのだろう。
答えを探ろうとすると、思考が先へ進むのを拒んでしまう。
力んでも力んでも、もどかしく空振りしてしまうばかり。
疲れる。
なら放棄すればいい。
私は残りの自習時間、広用紙の真っ黒にしてしまった部分を修正液で白く塗りつぶす作業に無心で取り組んだ。
つまらないけれど続けていけば、そのうち黒は白に戻った。
何かしら成果があるのなら、無駄に力むよりマシだと思った。