アリィ


今日だって一日中ぼうっとして、私の存在すら忘れているようだったアリィに、私はさよならも言わずに帰ってきた。


玄関のドアを乱暴に閉めても、腹の虫がおさまらない。


カバンを思いきり自分の机に叩きつけると、蛍光スタンドにこてん、と倒れかかった不細工なクマと目が合った。


『親友の証』。


夏休みが明けてしばらく、アリィはしきりにこれをカバンにつけてきてと言ってうるさかった。


でも私は、こんなアホ面のクマなんてぶら下げていたくなかったから、適当に受け流してしのいだ。


だいたい、毎日使うカバンにつけていたら、汚れてしまうではないか。


実際、アリィのカバンにぶら下がっているクマは、もうずいぶん黒ずんでしまっている。


別にクマが大事だからとかじゃなくて、こういう生き物の形をしたものが風化していくことが、私は嫌いなのだ。


だからこうして机の上にひっそりと飾っている。


無下に扱っているわけでもないし、これで充分じゃないか。


それなのにアリィは「おそろいの意味がない」と言って膨れていた。


あんなにうるさくまとわりついてきていたクセに、今日の態度ときたら。


そう、私はこのアリィの自分勝手さに腹が立っているのだ。


アリィの興味がどっちに向こうが、そんなことはどうでもいい。


ということでこのイライラの原因を突き止めたことにしたかったけれど、頭の片隅に引っかかっている何かがある。


私はその何かを必死に無視しようとした。


災厄の予感がしたからだ。


どうにか気を紛らわそうとしていたら、下腹部に不穏な気配を感じた。


……そういえば一般的な計算からすると、そろそろかもしれない。


神様は、これ以上私を思い悩ませてどうしようというのだ。


いい加減にしてほしい。


動きたくないけれど、制服が大惨事になってしまったら、それこそ打ちのめされてしまう。


気配の真偽を確かめるため、しかたなくトイレへと急いだ。

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