アリィ
保健室は開いていたけれど、先生はどこへ行ったのやら、不在だった。
「しようがないから、勝手に道具使わせてもらっちゃおっか」
持ち前の図々しさで、アリィは消毒液やピンセットの並ぶ棚をいじり始める。
「ゆっぴー、ここに座って膝を見せて。えっと、まずは汚れを落とさないといけないよね」
そう言ってアリィは水で濡らした脱脂綿を傷口に押しつけた。
「いたっ!」
水がしみて思わず声が出た。
「あぁ、ごめんね!ゆっぴーごめんね!」
「べ、別にいいよ……」
アリィがあんまり動揺するものだから、唇をかみしめて我慢することにする。
「そーっとやるから、そーっと」
申し訳程度の力で触れられる。
泥や砂や固まりかけた血が、ぽんぽんと優しくぬぐわれていく。
アリィの表情は、真剣そのものだ。
どうしてコイツは、私にこんなにも構うのだろう。
『イケニエ』にしやすかったから?
それにしたって、こんな私とじゃ一緒にいても楽しくないだろうに。
はじめからはっきりした理由なんて分からなかった。
でも、アリィはあの『親友宣言』以来、何があっても私のそばにいた。
どんなに無下な態度をとっても、離れて行かなかった。
ちょっとふてくされても、すぐに「ゆっぴーゆっぴー」ってまとわりついてきて。
なんだか、いつだって楽しそうだった。