アリィ


「ずいぶん早いけど、冷めないうちに食ってしまおうか」


テーブルに広げられたのは、高級ホテルのフルコースみたいな料理の数々。


「どうだ、うまそうだろう。高かったんだぞ」


誇らしげな父。


スーツを着ていないから、今日は休みだったんだろうか。


父は仕事では偉い人。


偉い人にも休みはある。


社長にも、スポーツの監督にも、総理大臣にも。


でも仕事を休めても人間を休むことはできない、それは心臓を止めないといけないから、でも心臓を止めたら死んでしまう。


じゃあ、人間は一生休めない、私は休んだことがない、だからしんどいんだ。


「お前、ちょっと痩せたんじゃないか?」


制服を脱いで部屋着に着替えリビングに出てきたら、そんなことを言われた。


父の眉は、おおいに下がっている。


眉が下がるというのは、どういうときであったか。


犬のしっぽが下がるときと、似ていたような気がする。


「たくさんあるからな。今日は、いっぱい食うんだぞ」


ほら早く座れ、と急かされて椅子に腰かけた。


いただきます、と手を合わせるよう言われて、そうする。


食え、と言われてカニの甲羅に入ったグラタンを口に入れる。


食え、と言われてトマト味の洋風煮物を口に入れる。


食え、と言われて焦げたチーズの浮いたコンソメスープを口に入れる。


「うまいか?」


うまいか。


うまいものは、メロンだ。


メロン、とても高いメロン。


アリィと食べた、あのメロン。


楽しかったお泊まり会。
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