アリィ
「楽しかった」
そう言うと、父は一瞬不思議そうな顔をしたが、ああ、そうか、楽しいならよかった、と笑った。
目尻にたくさんしわができている。
アリィの笑った顔は、細い目がさらに細くなって、さっくり裂けた切り傷みたいで、
口は、ぶりっこのためなのかタコみたいに突き出ているか、もしくは口角が異様に上がっていて、とても薄気味の悪いものだ。
でも目尻にしわはない。
一本もない。
父は、ずっとしゃべっている。
変なふうに笑っているような感じがするけれど、父がもともとどんなふうに笑っていたかなんて思い出せないので、それはどうでもいい。
ふと、この時間はいつ終わるのだろうと思った。
父と向き合ってご飯を食べていることが、とても奇妙に思えた。
奇妙。
どこかからすりこまれたステレオタイプの家族像……父と母と子供は二人くらい、
にぎやかに穏やかに食卓を囲む微笑ましい光景、それとは違うし、そもそも家族とは何なのだろう、私には分からない。
この状況は、いったい何なのだろう。
不思議、とても不思議。……
「おい、由紀子」
名前を呼ばれて、どこかへ旅立っていた焦点が父の元へ呼び戻された。
「お前、なんだかおかしくないか?」