君が、イチバン。

らっきょさんは見事な手捌きで、もう一本のブリも捌いていた。すごい。私なんか頭をスパンと落として、お腹に切り目を入れて中を綺麗にする単純作業なのに、らっきょさんは包丁を捻ったり、縦横器用に回して綺麗な切り口であっという間に三昧下ろしを作った。

すごい、すごいと感心しきりの私にらっきょさんは気を良くしたのか包丁で雑技団みたいな事をしてみせてくれた。なにそれ、だから何者。

「ら…、井村さんは、自分の店をだしたりしないんですか?それだけの腕があったら」

実際、ここの料理は美味しい。


「嬉しい事いうね!けど、俺は雇われでいんだよ、開業する金もないし実力もない。勢いだけは良いがな、努力もせんし。経営云々も分からんしな!悪い事だって散々やったし、こんな半端もんの俺を雇うここはかなり変わっていると思うよ。感謝もしてるがな!」

はっはっはと豪快に笑って、

「だから自分の店持つ奴はすごいよな」

とうんうん頷いている。
らっきょさん、いや井村さんは、この店が好きなんだな、と思う。同時に振り切れない過去もあるんだろうなと思った。店を出すと決めた瑛ちゃんにもきっと。


「井村さんの作る料理、好きです」


私が笑うと井村さんも照れたように笑った。



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