君が、イチバン。

「若咲さん、接客経験はありますか」

神経質そうにトントンと指先を叩きながら高橋さんが私を見つめる。

「カラオケは沖君と岡本君だったでしょ。あの二人を参考にするのは論外です。
特に岡本君は無愛想で話になりません。沖君は軽すぎて吹き飛ぶレベルです。だけど、何故そこそこ上手くいくか。それはあの二人が悔しい事に有能だからです。あの奇妙なバランス感覚で成り立つ不思議な現象ですので、Lai全てがそうだと思わないでください」

高橋さんの鋭い眼光が光る。なんだ、なんだ、すごいプロフェッショナルな感じ!

「接客に必要なのはまず、相手の顔を覚える事です。そして余計な言葉を使わない事。いらっしゃいませからありがとうございました、まで最後まで笑顔を添える事。よろしいか」

よろしいです!と思わず敬礼すると高橋さんはよし、と頷く。

それから、30分、発声練習と笑顔のレクチャーをされた。笑顔については褒められた。嬉しい。
高橋さんが見本に笑顔といらっしゃいませを言ってみせてくれたんだけど、なんかすごかった。挨拶の時の張りのない声をイメージしてたから、ちょっと舐めてた。

キツイつり目なのに笑ったら垂れる、口元に綺麗なエクボ。お腹から出る耳通りの良い声。

神だ。高橋さん、あなた神だ。

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