Love Step
杏梨を学校へ送った後、雪哉は店へ向かった。


開店までにはまだ早い時間で従業員たちが窓ガラスを拭いたり店内の掃除をしていた。


「おはようございます」


雪哉が姿を見せると従業員たちが手を止めて挨拶する。


「おはよう めぐみと遼平を呼んでくれる?」


受付にいた女の子に頼み雪哉は2階のオフィスへ行った。



* * * * * *



朝の打ち合わせが終わると受付から内線が鳴った。


「はい?」


『三木様がいらっしゃっていますが……』


「分かった お通しして コーヒーもよろしく」


『はい』



入って来た彩の顔色が悪いように見えた。


きれいにお化粧されていつも通りなのだが表情が浮かない顔をしている。


「どうした?こんな早くに」


ソファーに座った彩に聞く。


「テレビ局に行く前に寄ったの あの……お願いがあって……」


話しづらそうに口を開く。


「お願い?」


「ええ……この間の事故の事を記者がかぎまわっているみたいで……」


悲しそうなため息を一つ吐く。


「記者が?」


「そうなの……だから聞かれても何も答えないで欲しいと……ごめんなさい 勝手なお願いなんだけど……」


事故を起こしたのは峻だが、一緒に乗っていた彩は仕事の為に病院へ行かなかった。


その事が後ろめたいのだろう。


自分の仕事を優先してしまったのだから。


「分かったよ 杏梨のケガもたいした事はなかったし 杏梨にも聞かれたら何も言わないように言っておこう」


知らない男性が近づけば杏梨は逃げるだろうが。


「ありがとう 雪哉 こんなお願い本当に申し訳なくて……」


雪哉の言葉にホッとしたような笑みを浮かべた。


そこへ彩の携帯電話が振動した。


「あ、ごめんなさい 行かなくちゃ」


携帯電話を開いてメールを見ると立ち上がった。


「ああ 仕事がんばって」


彩は今、ドラマの撮影で忙しかった。


「ありがとう 雪哉」


彩はにっこり微笑むとオフィスを出て行った。



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