Love Step

レッスン

部屋を出たと同時に玄関のドアが開いた。


「ゆきちゃんっ!」


これから帰ると言った雪哉が玄関に現れたのだ。


店からここまで車で5分、地下駐車場から部屋まで3分はかかる。


少なく見積もっても10分は絶対にかかる。


「な、なんで……?」


あんぐりと口を開けている杏梨に雪哉はクッと喉を鳴らして笑った。


「肉じゃがの匂いがしないけど?」


「え……っと……ゆきちゃん、早いんだもん……」


困った顔の杏梨の頭に手を乗せてポンポンと撫でる様に叩く。


「でも作ってくれるんだろ?」


優しい笑顔で言われて杏梨はにっこり笑い返した。




* * * * * *



圧力鍋のおかげで急いで作ったにしてはおいしく出来上がった肉じゃがとなめこのお味噌汁、塩さばの焼き魚と言う食事だったがゆきちゃんはおいしそうに食べてくれた。


「そうだ、今日誰かに話しかけられなかったか?」


え?誰かって……あの人?


杏梨は峻の事を話そうかと考えて一瞬間が空いた。


隠す事ではないのにためらわれた。


「どうした?事故の事誰かに聞かれたのか?」


「え?事故?」


「彩にね、事故の事を記者がかぎまわっているから話さないで欲しいと頼まれたんだ」


彩さん……。


杏梨の脳裏に雪哉と彩が微笑みあっている姿が浮かんだ。


「幸い大怪我ではなかったからね 杏梨、聞かれても話さないで欲しいんだ」


ゆきちゃんが彩さんをかばうような言葉に嫉妬してしまう。


「杏梨?」


「う、うん もちろん言わないよ 彩さんは芸能人だから記事が出たら大変だもんね」


実際運転していたのはあの人だけど……あの人も芸能人だっけ。

あ!その話をしたくてお茶に誘われたんだ。


杏梨はどうしてお茶に誘われたのか納得した。


「ありがとう」


ゆきちゃんにお礼を言われてやっぱり心の中にもやもやしたものがあったけれど笑顔を向けた。



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