Love Step
店に着いて打ち合わせの最中に学校から雪哉に連絡が入った。


「めぐみ、10時からの予約をずらしてもらうように電話をしてくれるかい?」


雪哉は時計を見て言う。


「了解です 今日の予約の方は延期してもらいましょうか?」


「いや、お客様に迷惑をかけるしこの先の予定はつまっているからそのままでいいよ 風邪のようだと校医が言っているから病院で見てもらってから戻ってこられると思う」


机の上に無造作に置かれていた車のキーを手にした。


「わかりました 杏梨ちゃん、心配ですね」


「行って来るよ」


雪哉は急ぎ足で店を出た。



* * * * * *



医務室の扉を叩くと白衣を着た女性が顔をだした。


「お世話になります 西山の家の者ですが」


「西山さんの……お兄……さま……?」


校医はポカンと雪哉を見つめたまま動かない。


「はい 杏梨は?」


本当の兄ではないがいちいち話すのも面倒で適当に返事をした。


「え?あ、ええ こちらです 今眠っていますわ」


我に返りやっと身体をずらして雪哉を医務室の中へ入れる。


カーテンの引かれた場所に杏梨は眠っているのだろう。


他の3つあるベッドは布団が畳まれたままでカーテンは隅にまとめられている。


静かにカーテンを開けると杏梨はこちらを向いて横向きに眠っていた。


手は熱を確かめようと額に触れる。


額に触れても杏梨は身じろぎ一つしない。


「熱はないですが頭が痛いと、たぶん初期の風邪かと思われます」


校医は目と目が合った雪哉をまだ夢を見ているかのように見ている。


「ありがとうございます」


雪哉は校医ににっこり微笑んだ。


微笑まれて聞く勇気が出る。


「あの、雪哉さんですよね?」


テレビや女性ファッション雑誌で良く見かけるカリスマ美容師 雪哉。


目の前にいるのが信じられない。


「ええ、では連れて帰ります」


雪哉は掛け布団をはぎ杏梨の体と足の裏に腕を差し入れた。


「ありがとうございました」


雪哉は医務室を出る前にもう一度お礼を言った。



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