空白の玉座



「出かけるまで時間があるから、相手をしてやる」

ラインをなぞり滑って行く指先にルシアは背筋を震わせた。

「…いや」

「煩わせるな、大人しくしろ」

抵抗しようとしたルシアの細い手首をクラリスの手が掴む。

「黙って俺に従え。役目を果たせばいずれ自由にしてやる」

自由、その言葉を頭で繰り返してルシアはぼんやり天井を眺めた。

何度もその言葉を男に言われた。
その度に自問自答を繰り返す。

自由になって何になるのかと、帰る場所も待つ人もいない自分が自由になってどうするのかと。


『逃げて、生きろ』


兄の言葉を思い出して、ルシアは眉間に力を入れた。

泣きそうになるのを必死に堪えて震える声でルシアは呟いた。

「本当に、自由にしてくれますか?」





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