空白の玉座


あちこちの家から上がる炎がバチバチと音を立てる。

充満する煙に身を隠しながらルシアは必死に走った。

馬の蹄の音、誰かの悲鳴。


―――捕まれば、殺される。


絶壁の間の森へ抜ける道。
その手前に崩れた岩が積み重なった山がある。

馬で通ることはできないがそこを通れば森への近道なのをルシアは知っていた。

小さい頃そこで遊んではよく怒られたのだ。

「あそこにまだいるぞ!」

兵士の声に振り返ると馬に乗った男たちがこちらを目がけて走ってくる。

登りやすい岩を選んでいる余裕はなかった。

上へ、上へ。

必死に登り続けた。




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