空白の玉座
森へたどり着いた頃には傾きかけていた日もすっかり山の向こうへ消え、
辺りには濃い闇が立ち込めていた。
鬱蒼とした森の中、無我夢中で走り続けた。
喉はカラカラに乾き、膝は疲労で震えている。
聞こえるはずのない悲鳴が頭の中で響いていて、立ち止まってしまえば二度と動けない気がした。
どのくらい歩けば近くの村に行けるのか、自分はどっちの方に向かって走っているのか、全くわからない。
手足が痺れ気力も尽きかけた時、ルシアの目に灯りが映った。
ベルトワール軍の野営の明かりかと思ったが、思ったより小さい明かりを囲んでいるのは数人だった。
…助かる…。
闇に揺らめく赤い炎がその時は希望の光のように思えた。