To Heart
「じゃ、じゃあ。僕はこれで」

僕は俯いたままそう言った。顔を上げることは出来なかった。

「本当にありがとう。また明後日ね」

「はい……お疲れさまでした」

彼の横で、彼女が手を振る。

自転車を漕ぎ出した僕の後ろで

「もしかして、結構待ってた? 中で待っててよかったのに」

「違うよ、今来たばかり」

と言うような会話が微かに聞こえた。

彼はきっと長い時間、彼女を待っていたに違いない。

彼の顔は、鼻と頬が赤くなっていて寒空の下に長い間いた事を物語っていた。

彼女はとても愛されている。もちろん彼女も……

僕に勝ち目などない。

改めてその現実を突きつけられ、僕の目に涙の膜がかかっているのを感じた。

僕は逃げるように、もの凄い勢いで自転車を走らせた。
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