To Heart
なんとなく気になった僕は、自転車の速度を落としながら、その人の近くまで行ってドキッとした。


───久保田さん!?


いつも背筋を伸ばして颯爽(さっそう)と歩く彼女が、俯いて力無く歩いている。

声を掛けてはいけないような雰囲気。

だからといって放っておける状態には見えず、僕は思いきって彼女を呼び止めた。

僕の声に彼女は一瞬ビクッと体を震わせる。

ゆっくりと振り向いた彼女は、明らかに怯えている様に見えた。

「川口……く…ん……」

震える声で小さく僕の名前を呼び、とても動揺しているような表情で、僕と目線を合わせようとはしない。

雨なのか、涙なのか、目がとても潤んで見える。

なんだか、彼女が物凄く小さく見えた。
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