To Heart
僕は覚悟を決めて、高鳴り始める鼓動に堪えながら彼女の名を口にしようとした。

しかしそれよりもほんの少し早く、トラックの方から引越屋さんが彼女に荷物の積み終わりを知らせた。

「あ、そろそろ行かないと。ごめんね、呼び止めておいて」

「いえ。こちらこそ」

僕はまたもやタイミングを外し、言葉を飲み込まざるを得なくなった。

結局僕は、そういう星の下に生まれているのだ……

「じゃあ、元気でね」

「はい……」

僕は告白の代わりに、ありったけの想いを込めて

「幸せになってくださいね」

と言った。

「ありがと。川口くんもね!」

彼女はそう言いながら、僕にスッと右手を差し出した。

僕は少し緊張しながら、その手を握り別れの握手を交わす。

彼女の手はあの時とは違い、とても温かかった。

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