来栖恭太郎は満月に嗤う
そして娘は生き残った。

日本人の父親と、英国人の母親。

双方の血を受け継いだ混血児のリルチェッタは、その優れた美貌とは裏腹の、どす黒い復讐の炎を胸の内に宿らせ、再び俺の目の前に現れたのだ。

「お前は両親の命を奪った男の下でこき使われるのをよしとするのか?」

「貴方の下だから働くんです、来栖恭太郎」

僅かに眉を潜め、愛らしい顔に翳りを帯びさせ、リルチェッタが俺の名前を呼んだ。

…しばしの睨み合い。

並みの者ならば俺の眼力には耐えられない。

数秒もせぬうちに目を逸らし、負け犬の表情を浮かべる。

しかしリルチェッタは、そんな俺の視線にも怖気づく事なく、懸命に睨み返してくる。

…健気じゃないか。

そんな非力な身で俺の手の内に転がり込み、俺の隙を窺って両親の仇を討とうというのか。

そんな事が可能だと思っている辺り、可愛らしいものだ。


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