来栖恭太郎は満月に嗤う
「いいだろう」

俺は立ち上がる。

英国サヴィルロウにある名門テーラーのオーダーメイドのスーツは、衣擦れの音すら立てなかった。

「リルチェッタ・スゴウ、お前を我が屋敷のメイドとして雇ってやる。今宵よりお前は、この来栖恭太郎の忠実なる下僕だ。俺の命令には一切逆らう事なく、職務を全うしろ。いいな?」

「…はい」

僅かに屈辱の色を滲ませ、リルチェッタは返事する。

俺は。

「あうっ!」

その頬を音高く張った。

「返事が遅い」

「はい、わかりました…っ」

頬の赤みも引かぬうちに、リルチェッタが間髪入れずに返答する。

「きゃあっ!」

俺はもう一度頬を張った。

「返答がなっていないな。お前は誰に雇われている?」

「っ…」

再び屈辱に表情を歪めた後。

「わかりました…ご主人様…」

リルチェッタは蚊の鳴くような声で返答した。

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