恋人はトップアイドル
「・・優美ちゃんの前だから?」

ドクン。

一瞬、なにを言ったのかわからなかった。

このひと・・なに?


ユミチャンノマエダカラ?


・・なんでそんなこと・・・。

さっきまでとは違うユキさんの態度に、冷や汗が流れた。


・・まさか、バレてるの?


「はぁ?お前頭でもおかしいのかよ?」

輝の変わらないトーンの返事に、ハッと我に返った。

「・・ああごめん!やだあたし何言ってんだろうね!ごめんね優美ちゃん!」

「っあ、いいえ!」

さっきまでと同じユキさんの笑顔が、同じように見れない。

震える手を握りしめて、必死で笑顔を返した。


「おいお前、俺を呼びにきたんだろ?」

「・・あ、はい。輝さん、会見のスタンバイお願いします。」

お前。低い声。
ユキさんの前だから?と思っても、悲しくなった。

でもあたしも、一応芝居を打つ。ユキさんの前で輝を呼び捨てにするのはまずい気がした。

これも、女の勘。


「わかった。・・じゃ、ユキ、お前帰れよ。」

「えー?あたし待ってるから一緒に帰ろうよ!」

「アホか。こないだ車に張り付かれたばっかなんだ。お前と一緒に帰ったら今度こそ何いわれるかわかんねえんだろうが。」

「も~・・。本当、冷たいよね!」

「わかってんだろ。じゃあな。ちょっと待ってろ。」

輝はユキさんに背中を向けて、あたしにそう言うと楽屋へ戻った。

「・・たく。」

その背中を見ながら、ユキさんがそう呟く。

「仕方ない。帰るかぁ。・・ね、優美ちゃん。」

「はい?」

ユキさんの声に、あたしは彼女を見た。

ユキさんの大きな二つの瞳が、あたしを静かに見つめる。


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