恋人はトップアイドル
『人の彼氏横取りするなんて何様のつもり!』

美佳はその左手で、愛里の肩をドンッと校舎の壁に叩きつけた。

『・・・うっ・・。』

愛里は微かに顔を歪めて、小さな呻き声を上げた。しかしそのあと、意思のこもった目で、目の前の美佳を見据えた。

美佳は、反抗的なその態度にますます苛立ちが募った。


『・・なによ、その態度。自分のやったこと、まだ反省してないわけ!?』


微かに声を震えた。好きな人を取られた悲しみと、奪った相手への怒りが、知らず知らず出てしまっていた。

愛里は、それを感じて、迷ったように目を伏せた。が、すぐにまた美佳の方を向いた。


『・・私が、やったことを、許してくれなくても構いません。ただ、私も、彼が好きなんです。先輩に負けないくらい。先輩よりもずっと前から、彼が好きだったんです。・・・だからもう、渡しません。』


愛里の目には、確かな意思が宿っていた。











「ハイ、カーーット!モニターチェック入ります!」

恐ろしいほどの静寂の中に、ADの声が突如響き渡った。現場の緊張感が、一気にほどける。

私はホッと、息をついた。


「ユキ先輩っ、肩大丈夫でしたか?」

美佳役の南が声をかけてきた。

「ああ、うん。平気よ。」

所詮女子相手、全力でやられてもそんなに衝撃はなかった。

「よかったぁ・・!ユキ先輩に怪我させちゃったらと思ってドキドキしましたぁっ。」

南はホッとしたように胸に手をあてて、顔をくしゃくしゃにさせた。


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