恋人はトップアイドル
背中に、柔らかい温もりを感じた。でもそれにさえ、不快感が増すばかりだ。

「・・応えられないって、言わないで・・!」

消え入るような、声だ。

「・・ユキ!」

俺の腹に回された腕を、解こうとつかんだ。

「だって輝は!だって輝は・・、あたしに一度だってチャンスをくれないじゃない!応えようとも、してくれないじゃない!」

その悲痛な叫び声は、俺のどこかを打ち抜いた。自分がすごく、酷いことをしているのだと、思い知らされたみたいだった。

「好きなの・・。好きなのよ・・・。だからお願い、あたしにチャンスをちょうだいよ・・。まだ、誰かのものにならないで・・・。」

切ない声に、俺の手から、力が抜けた。

・・なんでだよ。

「どうして・・、どうしてお前は、そんなに俺が好きなんだよ・・。」

恐怖さえ感じるほどの、執着心。俺はお前といると、疲れ果てるんだよ。

「・・理屈なんかじゃない。そんなの・・言葉で言えやしない。」

その言葉に、俺は今度こそ、ユキの腕をほどき、向き直りその身体を剥がした。

「・・わかった。でも、ごめん。チャンスは、やれねえ。」

ユキの瞳をしっかり見て、そう言った。

「俺はお前を、好きにはならない。・・絶対だ。」

「・・・優美ちゃんが、いるから?」

「違う。そんなこと関係ない。ただ、お前とは・・仕事仲間以外の何物にも、なりたくねえんだ。」

それが、本音だった。
仕事以外では、関わりたくない。
要は、それだけだった。


「・・やっぱり、酷いのね・・。」

ユキは、下を向いて、ふっと笑った。それが酷く、哀しい顔で、美しかった。

「・・ごめん。」

俺は、それしか言えない。
ユキのぶつけた「本気」に、答えるには、これしかなかった。

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