恋人はトップアイドル
「まあ・・だよな。でもお前本当におじょーさまってやつか。」

「そんなことないって。ただお父さんが、お母さんのためにこの家を建てたの。」

百合みたいな本当のお嬢様を知っているから、自分がそう言われることには抵抗がある。

「本当に・・仲いい両親だったんだな。」

「・・・・うん。」

輝がしみじみと言った言葉に、幼い頃に見ていた2人を思い浮かべた。愛しさと、淋しさが襲う。まだ、懐かしむ気持ちにはなれない。

「輝の両親は?」

「あ?」

そういえば、輝の家族はどうなんだろう。
そう思った。

でも、聞いた瞬間、後悔した。

少し、本当に少しだけど、

輝の表情が、曇った。


「あー・・そうだな。両親は・・・、なんつーか、あんま思い出ねーな。」

気まずい空気が流れる。
何か、何か言わなくちゃ。
そう思うのに、初めてみる輝の表情に、言葉が出ない。

「俺にとっては・・たった一人の姉貴が親みたいなもんだったからな。」

「お姉さん?」

いたんだ・・・。
そんなこと、誰も知らないはず。

「ああ。3つ上のな。」

「今はどうしてるの?」

「結婚して、家は出たよ。」

「そうなの・・・。でもそしたら、お姉さんは幸せだね。」

「は?」

輝は、どうして、と言いたげだ。気づいてないんだ。

「輝、お姉さん思いなんだなってわかるよ。優しくて、かっこいい弟いたら、あたしだったら嬉しいもん。」

輝がお姉さんの話をしたとき、すごい柔らかい表情になった。
一瞬それは、家族の情を越えているようにも見えて、少し戸惑ったし、悔しくもあった。

でも、そのお姉さんのおかげで、今の輝がいるなら。
感謝したいって思ったの。

「・・んなことねえよ。」

あ、照れてる・・・。

その表情に、また1つ新しい発見をした。
愛しさが増えていく。

そこに、ピーッと鳴る音が響いた。

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