恋人はトップアイドル
やかんを火から下ろして、カップを棚から出した。
私はダージリンティーで、輝はコーヒー。

「輝、ブラックだよね?濃いめがいい?それとも・・」

振り返って、驚いた。
すぐ近くに、輝が立っていた。

照れる間もなく、輝に後ろから抱きしめられた。肩に、輝の頭が乗っかる。耳に、輝の息を感じて、身体中が熱くなった。

でも、緊張する。
まだこの甘さに慣れない。
固まってしまう。


「濃いめ。」

輝が囁くように言った。
思わずピクンと、身体が動く。

「・・ん。」

もう、緊張と、幸せで、どうにかなりそう。
お湯をゆっくりと注ぐ。

「・・なんか。」

輝が何かを言いかけた。

「ん?」

「なんか、いいな、こういうの。」

「・・なにが?」

よくわからなくて、首を傾げた。

「・・お前がキッチンにいて、それを後ろから眺めるのって、なんだか幸せだなって。」

「・・え?」

「こんなに穏やかに過ごせるの、いつぶりだろうな・・。」

少しだけ、疲れの滲んだ声がした。

だって、毎日、ファンのために頑張ってる。自分自身のために、努力もしてる。輝は今、業界でNo.1のアイドル。忙しくないはずない。

なのにあたしとも会う時間を作ってくれてる。
プレゼントだって、よく考えたら、いつ買いに行ったんだろう・・・。

それでも、幸せだと言ってくれる輝が、愛しくて堪らなかった。本当に、どうしたらいいんだろう。溢れそうで、胸の奥が痛くなる。

「あたしは、いつもここにいるからね。」

ゆっくりやかんを置いて、あたしは廻された腕に手を置いた。

「輝がそう言ってくれるなら、いつだっている。輝の側で、輝を見てるから。絶対に、目を離さない。だから・・輝も、それ、覚えててね。」

この温もりは、失えない。
もう絶対に。

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