恋人はトップアイドル
「びっくりしたろ、ごめんな。」

「ううん・・、お姉さん、てあの人なんだね。」

「ああ。俺もまさか会うと思ってなかった。」

帰りの車の中、輝の声は心なしか浮き立っているように聞こえた。

「お姉さん、て・・、前、親代わりって言ってた?」

「ああ、そうだな。」

「・・一般人、だよね?なのにあの旅館、知ってるんだね。」

嫌な聞き方だな、と思った。
なぜか緊張して、手を強く握っていた。声が嫌に高く出る。

「ああ、あいつは何度か連れてってんだよ。あの旅館。デビュー当時から堂元には世話になってたからな。」

「あいつ」。
その親しげな呼び方に、さらに違和感が募る。
姉弟の在り方はわからないけど、弟は姉を、そんなふうに呼ぶものなの--?
まるで、彼女みたいに・・・。

「お姉さん、綺麗な人だね。」

「あー、確かにそうかもな。何度かスカウトもされてるし。」

素直に認めた、その言葉に驚いた。まさか輝が、人を褒めるなんて・・。

「あ、あたし姉とかいないからわからないけど、普通、名前で呼ぶの?」

なにが不安かわからない。
でも、嫉妬していた。多分。
ユキさんにも感じなかったこの感情は、何なんだろう。

「あー、それはどうだろうな・・・。でも、姉貴ってしっくりこねえんだ。俺にとっちゃ、小夜は小夜だ。」

その返事には、輝の小夜さんへの想いがこめられていた。
小夜さんは輝にとって特別なんだ、と、確信させられる、そんな返事だった。

「でも唐突だったけど、優美といる時に会わせられてよかったよ。」

「え?」

「いずれ会わせようと思ってたからな。」

どういう意味か掴めず、運転する輝の横顔をみる。

「バカ、気付けよ。家族に紹介する、っつってんだぞ?」

「あ・・。」

その言葉に、思わず顔が赤くなった。と同時に、恥ずかしくなった。
すぐに不安になる、自分の弱さが。

「まあまたそういう機会作るわ。覚えといて。」

「・・うん。」

輝の誠実さが、嬉しい。
だけどどうしても、違和感は消えなかった。



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