恋人はトップアイドル

君のいる場所へ

3月初め。私たち高校2年は、早めの春休みに突入した。

他の同学年の子たちは今頃、遊んでいるか、予備校に通っているか、のどちらかだろう。

けれど私は今、大きな鉄壁の前に立っていた。

いかにも、そういう関係者しか入れなさそうな、威圧感のある鉄壁。


これを開ければ・・、私はもう、何も知らなかったこっち側には、戻ってこれない。


異様な緊張感と不安、そして恐怖に、私の手は少しだけ奮えていた。



・・・でも、逢いたいから。

輝に。



私は小さく息をはいて、鉄壁に近づく。

ドアノブに手をかけて、思い切り引っ張った。


ギィッ-------。


そう音を立てて開いたかと思うと、いきなり聞こえてきた爆音と、パシャパシャというシャッターの音、そして目に映るのは、瞬いほどの光。


すごい・・人・・・。


初めて見る世界に、戸惑いというよりも、興奮を感じた。
ドアノブから手を離す。


ゆうに50人は越えているだろう、スタッフの数。大きな白いレフ板は、ライトが当てられて強い光を放っている。

その前に、カメラマンが立っている。しきりにシャッターを押していた。
カメラマンのすぐ後ろ辺りには、パソコンだか何だかわからない機械がずらりと並んでいる。


す・・ごい・・!


これが、「芸能界」。


輝のいる、世界なんだ。



「はーい、みんな良かったよ!じゃあ一旦、休憩ね!」

カメラマンの男性が、顔を上げたのが後ろから見ていてわかった。

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