恋人はトップアイドル
SIDE 輝

変な女

「カットォ!」

「カーット!チェック入ります!」

監督の一言で、それまで微動だにしなかったスタッフたちが動き出す。

カメラだの、照明だの、音声だの、それぞれがそれぞれの機材や仕事の確認をする。

俺はモニターを確認するために、大規模なセットを下りて、監督の元へと近付いた。

「輝、今の良かったよ。」

後ろからポンと肩を叩かれた。
振り向くと、そこには完璧なまでの美貌を持った女。
今回の映画での、俺の相手役であり、俳優業においては何年か先輩の女優だ。

といっても歳はそんなに変わらない。
だけど確かに演技は上手いし、どっから見ても綺麗だし、世間的にも認知度・人気、共にNo.1だ。

女だけど、すげえなって思う。俺がこの業界で話す、数少ない相手の一人でもある。


「そうか。」

「何よ、なんか上の空ね。疲れてるの?」

「いや、別にそんなんじゃねーよ。」

「最近ご飯ちゃんと食べてる?」

「なんで。」

「だってさっき抱き着いたとき、前より痩せてた。」

さっきの演技は、恋人っていう設定の俺とこいつが、抱き合うシーンだった。

「あー、ツアーが近いからだろ。食っても食っても肉つかねえんだよ。」

「あ、そっか。ツアーか。」

そう言いながら、監督が確認しているモニターの前に座りこむ。

「監督、どうですか?」

俺の後ろから、ユキが声をかける。

「ユキちゃんも輝も、いいね。もうワンテイク、違うアングルから撮ったら、今日は終わりかな。」

「やったぁ。」

呑気にユキが喜んでいる前で、俺はモニターの中の自分の姿を見ていた。


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