恋人はトップアイドル
俺には、どこが良いとか悪いとか、そんなんもわかんねえ。

元々俳優じゃない。アイドルの延長線上で来た仕事が、なぜか乗ってるだけ。

演技が何たるか、なんてのは知らない。仕事なら、やるしかない。だから、セリフを覚えて、何となく違う人間になりきってみる。それで今まで、やってこれている。

でも、モニターの中の自分を見ては、未だに残る違和感。

アイドルっていう立ち位置のせいか、ドラマや映画の内容のほとんどが恋愛。しかも純愛物だったりする。

だけど実際んとこ、俺は恋愛とかどうでもいいタチだから、一人の女を一途に想うだとか、そんなのはわからねえ。

愛しそうに相手を見つめて、なんて言われても、その感情がわからない自分にはどうしようもない。


だけどそれでも乗り切れてしまうんだから、本当に簡単な世界だと思う。



撮影は程なくして終わった。撮影期間も半分を過ぎて、だいぶ佳境に入ってきている。


「輝!今日は直帰?」

衣装を脱いでいると、ユキが楽屋にやってきた。

「ああ、そうだけど。」

「じゃあ一緒に帰らない?ご飯食べようよ。」

「無理だろ。」

「え~、なんで?」

「お前と歩いてちゃどこ行っても撮られんだろ。今撮られんのは時期的にマズイ。」

ツアーだの映画だのって忙しい俺の周りには、いつでも野次馬が潜んでる。いわゆる、パパラッチってやつだ。ちょっとのことでも、写真にされて大事にされる。
しかもユキもいつも追っかけ回されてる。二人でいれば撮られんのは確実だ。


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