恋人はトップアイドル
少し変な沈黙が二人を包んだ後、何か重大なことに気付いたかのように、優美が声を上げた。


「・・あっ!や、違・・、い今のは変な意味じゃなくて・・、あの、えっと・・・。」

「わ、わかってる!」

優美の赤い顔につられて、俺まで変に赤くなる。

な、なんだコレ。


胸がドクドクとうるさい。優美をチラリと見ると、赤い顔のまま困ったように、髪の毛をくしゃっと掴んだ。


そんな優美さえ、可愛いとかおもう俺は、もう末期なのかもしれない。


「お、お前、戻んなくていいのかよ。」

「へ!?・・あ、ああ、うん、戻んなきゃ・・。」

「早く行ったほうがいいぜ。」

「あ、うん。じゃあ、後で。」

優美はそう言うと踵を返した。それを引き止める。

「優美。」

「なに?」

優美が振り返る。

「今まで通りに、やればいいから。・・俺は、お前を信じる。だから、お前も信じろ。やれる、って。」

「・・輝。うん。」

優美が力強い目で頷いた。


俺はこいつにも、見せてやりたい。
あの、キラキラと輝く時間を。その素晴らしさを。


「絶対ついてこいよ。」

「・・うん、ついてく。」

俺は立ち上がって、優美に近づいた。小指を立てて差し出す。優美は一瞬きょとんとした後、理解したように、俺より小さくて細い小指を差し出した。

ぎゅっと、その小指に、俺の小指をからめる。

「・・約束だ。絶対、このツアーやり通すぜ。」

「うん、約束。」

笑顔で頷き合い、小指をそっと離した。

優美は最後に笑顔を見せて、楽屋から出ていく。



あいつを、連れて行きたい。
俺がいる場所に。まだ俺さえ、見てない場所に。

どこまでも、一緒に。



< 88 / 254 >

この作品をシェア

pagetop